INICIAR SESIÓN洞窟内に再び静寂が戻ると、ユウヤは女神から授かったスキルを使い、散らばった魔石の回収を始めた。
「これだけデカいと、魔石も相当なもんだな……今日だけで、モンスターの大量の討伐をして随分とレベルが上ったな。そのお陰で体が随分と軽くなった気がするな。最高じゃん!」
ユウヤは自らの掌を握り込み、全身に漲る圧倒的な力を実感した。重厚な魔石を次々と収納に放り込み、ふと、自分を飲み込んだあの巨大な穴を見上げた。
「どうやって、脱出しようか考えてたけど、今の身体能力なら跳躍で出れそうじゃないのか?」
深く暗い垂直の穴。以前の自分なら絶望していたかもしれないが、今のユウヤには揺るぎない自信があった。彼は軽く膝を曲げ、大地の反動を余すことなく跳躍へと変えた。
ドォン! という爆音と共に地面が爆ぜ、ユウヤの体は弾丸のような速度で上昇した。急激なレベルアップによる身体能力の向上は想像を絶しており、穴の出口を通過しても勢いは止まらない。
「うおわっ!? 飛びすぎだろこれ!」
想定を遥かに超え、ユウヤの体は木々の梢を遥か眼下に捉えるほど上空まで舞い上がった。切り裂くような風の音が耳朶を打ち、冷たい空気が全身を包む。
落下に備え、ユウヤは空中で瞬時に姿勢を制御した。着地の衝撃を殺すため、足元にクッション状の多層バリアを展開する。地面に接触した瞬間、凄まじい土煙が舞い上がったが、バリアが全ての衝撃を吸収し、ユウヤは事もなげに大地に降り立った。
立ち上がり、周囲を見渡したユウヤは、その光景の変化に目を細めた。
「……霧が、晴れてる」
先ほどまで視界を塞いでいたどす黒い霧は霧散し、そこには陽光が木漏れ日となって差し込む、穏やかな山の風景が戻っていた。
原因は、あの地下の空間に溜まっていた大量のモンスターの邪気やオーラが混ざり合い、溢れ出していたものだったのだろう。地下の魔物を一掃したことで、異変の源流が絶たれたのだ。
森の奥には、まだ微かに魔物の気配が残っているが、それはごく一般的な野生のそれだった。
「これなら、もう問題ないな」
ユウヤは清々しい表情で空を仰いだ。山を覆っていた不気味な気配が消え、村を繋ぐ道は再びその姿を現していた。
ふと、手元にある依頼書の魔力的な表示を確認し、ユウヤは思わず「うわっ……」と声を漏らした。「ヤバっ!? 討伐合計数が三万体ってなってるし……これ、書き換えられないのか?」
自動で記録される討伐数には、あの洞窟で一掃した無数の魔物たちがきっちりとカウントされていた。三万という数字は、もはや個人が数日で成し遂げられる規模を逸脱している。
「不正ってバレた方が不味いかぁ……。でも、実際倒しちゃったしな」
ユウヤは困ったように頭を掻いたが、考えても仕方がないと割り切り、手に入れた大量の戦利品の整理を始めた。あまりに小粒の魔石が多いと持ち運びにも不便だ。ユウヤは自身のスキルを応用し、同じ種類の小さい魔石を十数個まとめて中くらいの魔石へと凝縮させ、さらにそれを大きな魔石へと変換していった。手のひらで魔石が融合し、輝きを増していく様子は、まるで宝石を錬成しているかのようだ。
ある程度の整理を終えると、ユウヤは再び歩き出した。頂上付近にあるという村を探し、緩やかに続く山道を進んでいく。しばらくすると、霧の晴れた見通しの良い道へと出た。そこからは迷うことなく、道沿いに頂上を目指して歩き続け、やがて木製の柵に囲まれた村の入り口へと辿り着いた。
「ふぅ……さすがに疲れたな」
ユウヤは懐から回復薬を取り出し、清涼感のある液体を喉に流し込んだ。染み渡るような魔力が全身の疲労を急速に拭い去っていく。一休みして息を整えてから、ゆっくりと村の中へと足を踏み入れた。
だが、そこには不自然な静寂が広がっていた。
「……誰も姿が見えない? 壊滅状態じゃん」
家々の扉は固く閉ざされ、窓には板が打ち付けられている。広場には人影一つなく、ただ乾いた風が砂を巻き上げているだけだ。一瞬、最悪の結果を想像して身構えたが、研ぎ澄まされた感覚が家々の奥から怯えるような鼓動を捉えた。
「あぁ……気配はするな。みんな隠れているだけか」
ユウヤは少しだけ安堵し、村の中央へ向かって歩きながら、警戒を解くように穏やかな声で呼びかけた。
村の中で一際立派な、太い丸太で造られた建物の前で立ち止まり、その重厚なドアを軽くノックした。
「あのーすみません! 冒険者ギルドの依頼で来たんですけど~、モンスターの殲滅が終わったんですけど~」
声を張り上げてみたものの、返ってくるのは虚しい沈黙だけだ。しかし、壁越しにはひそひそと囁き合う声や、衣擦れの音が確かに聞こえてくる。
(気配はするので居留守? 無視ですかぁ? ひどっ!)
せっかく山を駆け上がってモンスターを三万体も片付けたのに、この扱いは少々寂しい。ユウヤは少しだけ悪戯心を出し、ドアに向かってわざとらしく大声を上げた。
「返事がないようなので、依頼の不成立なようなので……倒したモンスターを回復して元に戻しておきますよ~!」
ミリアのナイフのサイズに合わせ、魔石の形と大きさを精密に調整していく。指先で魔力を整えながらナイフの柄へと嵌め込むと、それはまるで最初からそこにあったかのように完璧に馴染んだ。(うん……なかなか格好良いじゃない?) 完成したナイフは、ただの宝石とは一線を画す、深く幻想的な輝きを放っている。見つめていると吸い込まれそうなほど純粋な蒼。それがミリアの柔らかな金髪と対比され、凛とした美しさを引き立てていた。「はい。これだけど……どうかな?」 差し出されたナイフを手に取り、ミリアは息を呑んだ。「わぁ……キレイです……スゴイですっ! こんなに澄んだ青色は見たことがありませんわ……」 彼女は宝石の輝きを瞳に映しながら、うっとりとナイフを見つめている。だが、ユウヤはそこで終わらせるつもりはなかった。「ちょっと待ってて……試したい事があるんだ~」「はい♪」 ミリアはユウヤへの全幅の信頼を込めて、花が綻ぶような笑顔で頷いた。 魔石を指先でなぞりながら、対象者に害意や殺意が向けられた瞬間に強力なバリアが発動するよう、緻密なイメージと共に魔力を流し込んだ。 よし……成功したかな。すぐにでも性能を試したいけれど、当然ながら俺がミリアに殺意を向けるなんて真似は逆立ちしたってできそうにない。そこで、気配を感じる天井付近へと視線を向けた。「あ、護衛の人……ちょっと良いかな? これを持っててくれる?」 そこにいる精鋭なら実験台には丁度いいと思ったのだが、言葉を遮るようにミリアが声を荒らげた。「ダメですっ! そのナイフは、男性の方で持って良いのはユウヤ様だけですわっ」「えぇ……実験なのに……ダメ? 試したいんだけどなぁ」「ダメですっ!」 ミリアは両手
だが、腰に下げた紋入りの剣の感触が、少しだけ心を軽くした。この王国で冒険者としての証明を得て、国を救った功績も認められている。これまでの信頼があるのだから、理不尽なことにはならないはずだ。「……今は、考えないでおこう」 ユウヤは思考を切り替え、逸る気持ちを足に乗せて家へと急いだ。ギルドでの騒動と山での激闘を終え、全身にずっしりとした疲労感が染み渡っている。何よりも今は、あの温かい場所へ帰りたかった。 玄関の扉を開け、リビングへと足を踏み入れる。 パチパチと暖炉が爆ぜる音と共に、スパイスの効いた食欲をそそる夕食の匂いが鼻腔をくすぐった。視線を上げると、そこには今か今かと待ち構えていたミリアの姿があった。「ユウヤ様……!」 目が合った瞬間、ミリアは弾かれたように椅子から立ち上がり、駆け寄ってきた。彼女はそのままの勢いでユウヤの胸に飛び込み、折れそうなほど強く抱きしめる。「もぉっ! 心配しました……酷いですっ! ギルドに行かれるとしか聞いていませんでしたよっ! しかも……伝言を、隠れて尾行をしていた隠密の方に頼むなんて……」 ミリアはユウヤの胸に顔を埋めたまま、ぎゅっとその衣類を掴んで抗議の声を上げた。 主人が急にいなくなったと思えば、姿の見えない護衛の隠密が困惑した様子で現れ、「ユウヤ様から伝言です」と告げられたのだ。その状況を思い返したのか、ミリアの肩が微かに震え始める。 彼女は顔を上げると、潤んだ瞳でユウヤを睨みつけたが、その口元は既に緩んでいた。「……ふふっ。あの方たち、気配を消して守るのが仕事なのに、あっさりと見つけられて、あろうことかお使いまで頼まれるなんて……。戻ってきたとき、すごく複雑な顔をしていましたよ?」 心配でたまらなかったはずなのに、ユウヤのあまりに規格外でマイペースな行動が、彼女の不安をおかしな笑いへと変えてしまったようだ。「…&hellip
「分かった。みんなには内緒ね!」 ユウヤが爽やかな笑顔で約束すると、ニーナは安堵したように、けれど大切そうにネックレスを胸に抱きしめた。窓から差し込む陽光が、彼女の金髪と青い魔石を宝石のようにキラキラと輝かせていた。「魔石の買い取りは、どういたしますか?」 ニーナが名残惜しそうにネックレスを指先でなぞりながら、職業的な顔に戻って尋ねた。「ん~今回は、止めておこうかな」 これだけの数の魔石を一気に市場へ流せば、価格の暴落を招くかもしれない。ユウヤはそう判断して首を振った。「そうですか……分かりました。それでは、こちらが今回の報酬の金貨五枚です。それと……ちゅ♡」 金貨を手渡すためにユウヤが手を伸ばした、その一瞬。ニーナが不意に身を乗り出し、至近距離まで顔を近づけた。頬に、柔らかく温かな感触が触れる。 え? えっと……。 ユウヤは雷に打たれたように硬直した。嬉しいけれど、ここがギルドの応接室であることを考えると、あまりにも刺激が強すぎる。「ご迷惑かもしれませんが……私に出来る、精一杯のネックレスのお礼です……」 ニーナはいたずらっぽく、それでいて潤んだ瞳でユウヤを見つめた。その表情には、受付嬢としての仮面など微塵も残っていない。「心配してくれたお礼だったのに……またお礼をされちゃったよ」「はい。本当に嬉しかったのです。あんなに素敵な、初めてのプレゼントを頂いちゃいましたから……」「え~ひどっ。あの時に、あげたリボンもプレゼントだったのに……」 ユウヤがわざとらしく、少し拗ねたような声を出す。「あ……そういう事では……すみません……ううぅ……」 『ニーナは失敗した!』と
「はい。王国の大規模な依頼で、三十人規模のパーティを組んで複数のパーティで大規模討伐を行っても、このような数字にはなりません。頑張っている冒険者パーティでも、毎日休まずに討伐を行って一年間で、二千体いかないくらいですよ。三万三千体って、いったい何をされたんですか……」 ニーナは縋るような、それでいてどこか遠いものを見るような瞳でユウヤを見つめた。彼女の持つ冒険者の常識が、音を立てて崩れ去っているのがわかる。 そう言われても……討伐をしちゃった物は仕方ないじゃん。一応……誤魔化してみるか。「えっと……じゃあ……依頼書が、おかしくなっちゃったんじゃない?」 ユウヤは頬を掻きながら、精一杯のとぼけた顔を作ってみせた。「ううぅ……そんな訳が無いじゃないですか……。そのような報告は、今までに一度もありませんよ」 ニーナは力なく肩を落とし、困ったように眉を下げた。だが、すぐにその表情を引き締め、ユウヤの無傷な姿を改めて確認するように見つめる。「問題はありませんので大丈夫です……。ただ、わたくしが心配をしてしまっただけですので。今後は、こんな無茶で危険な討伐はしないでくださいね……?」 彼女は母親が子供を諭すような、優しくも切実な響きでそう告げた。その瞳の奥には、ユウヤを誇りに思う気持ちと、二度とあのような無茶をしてほしくないという、心からの慈しみが満ちていた。「わかった、気をつけるよ」 ユウヤは苦笑いしながらも、彼女の温かな気遣いに素直に頷いた。「はーい。そんなに心配をしてもらえて嬉しかったから……ちょっと待ってて」「え? あ……はい」 立ち上がろうとしていたニーナは、言われるがままに座り直した。俺の顔をじっと見つめる彼女の瞳は、期待と不思議さが入り混じったように「
急いで帰路につくと、レベルアップによる恩恵は凄まじかった。脚力のみならず、心肺機能や動体視力までもが強化されており、飛ぶような速さで険しい山道を駆け抜ける。結局、馬車で数日かかるはずの道のりを、わずか半日で踏破して街へと戻ってこれた。 そのままギルドへ直行し、報告のために受付の列に並ぶ。すると、カウンターの奥で忙しなく動いていたニーナが、列の中にいるユウヤの姿をいち早く見つけ出した。 彼女はぱっと顔を輝かせ、丁寧にお辞儀をすると、弾むような足取りで駆け寄ってきた。「ユウヤ様、なにか問題でしょうか? 途中で引き返してこられたのですか?」 ニーナは眉をひそめ、縋るような眼差しで問いかけてきた。よほど重大なトラブルがあったのだと思い込んだのか、返事を聞く間もなくユウヤの手を引き、足早に応接室へと連れ込んだ。 重厚な扉が閉まり、二人きりになると、彼女は身を乗り出すようにしてユウヤを見つめた。「どのような問題でしょう? わたくしにできることがあれば、何でもご協力いたしますよ」 必死に力になろうとしてくれる彼女のひたむきな姿勢に、ユウヤは苦笑いを浮かべた。「ん? 問題はないよ。依頼が終わったから帰ってきたんだけど……」「へ……? は、はい? えっと……最短でも、やっと山に着いた頃だと思いますけれど……?」 ニーナは目をパチパチさせ、信じられないものを見るように首を傾げた。彼女の常識では、今この瞬間にユウヤが目の前にいること自体が、魔法か何かを見せられているような感覚なのだろう。「あはは、ちょっと急いだんだ。ほら、これ。村長のサインももらってきたよ」 ユウヤが差し出した依頼書を、ニーナは震える指先で受け取った。しかし、そこに記された数字に目を落とした瞬間、彼女の時が止まった。「……えっ? あ、あの……ユウヤ様? この……討伐数の欄……桁、間違えていらっしゃいませんか……?」 ニーナの透き通った瞳が、三万体というあり得ない数字を捉えて激しく揺れていた。 俺から手渡された依頼書を凝視したまま、ニーナは石像のように固まってしまった。まあ、書き換えも誤魔化しもきかないこの討伐数を見れば、無理もない反応だとは思うけれど。「あ、あの……何ですか、これ……。種類の数も討伐数もおかしいです。いったい……どちらへ行かれたのですか? 討伐する場所を間違えてませんか
冗談っぽくそう告げた瞬間、建物の中から「ひっ!?」という短い悲鳴が上がり、ドタバタと慌ただしい足音が響いた。……さすがに討伐したモンスターを生き返らせるなんて、俺にもできないと思うけどさ。「お、お待ちください!! 待っていただきたい!!」 勢いよくドアが開き、中から白髪混じりの髭を蓄えた、恰幅の良い老人が飛び出してきた。その後ろからは、不安げな表情を浮かべた村人たちが恐る恐る顔を覗かせている。「わ、私は、この村の村長です……。モンスターの殲滅をしていただいたそうで……感謝をいたします。……ですが、ほ、本当に、本当に殲滅をされたのですか?」 村長は、信じられないといった様子でユウヤを凝視した。村を覆っていたあの禍々しい黒い霧が晴れ、久方ぶりに差し込む暖かな陽光が彼らの肌を照らしている。それが何よりの証拠ではあるのだが、たった一人で現れた少年に、村を救うほどの力があるとは俄かには信じがたいのだろう。「ええ。とりあえず、村の周りと地下にいた群れは片付けましたよ。もう山道を通っても襲われる心配はないはずです」 ユウヤが屈託のない笑みを見せると、村人たちの間に「おお……」と地響きのような、安堵と驚愕の混じった溜息が広がっていった。 ユウヤが「これ、ギルドの依頼書です」と差し出すと、村長は震える手でそれを受け取った。そこに刻まれた信じられないような討伐数と、実際に晴れ渡った空を見比べ、彼は枯れた声を絞り出すように叫んだ。「うおぉ~~!! 助かったぞっ! 皆の衆、もう大丈夫だ!」 その声を合図に、広場には家々から村人たちが次々と溢れ出してきた。「わぁ~!!! やったぁ~! 餓死しなくて良かった……」「三ヶ月振りに、やっと町に帰れる……。ゴブリンやデカいモンスターは、もう現れないんだよな? な?」 涙ながらに抱き合う者、地面に膝をついて祈りを捧げる者。村中が爆発したような歓声に包まれる。その中で、荷物を背負った商人風の男が必死な形相でユウヤに詰め寄ってきた。「本当に、現れないんだな!?」「はい。普通の山程度には現れますけど……あの異常な群れはもういませんよ」「でも、現れるのだな? なら護衛が必要だな……頼めないか? あんた、強いんだろ?」 男は商品を売りに来たのか、はたまた届けに来たのか、運悪く封鎖に巻き込まれて三ヶ月も足止めを食らっていたらしい